職場での喧嘩に対する会社の責任(労働災害と使用者責任・安全配慮義務)

人事労務

オフィスで従業員同士が喧嘩になり、一方がケガを負ったようです。これは会社にも責任があるのでしょうか。

まず、労災あるかどうかが問題となります。また、民事上の責任の問題があり、使用者責任又は安全配慮義務違反が認められると会社が損害賠償義務を負うことになります。

これらについて以下で詳細に説明しましょう。

第1 職場での喧嘩と労働災害

労災となるための条件

労災になるかというのは、すなわちその喧嘩で負ったケガ等について業務災害といえるかどうかということになります。
業務災害とは会社の業務に起因した傷病であり、その認定においては「業務遂行性」と「業務起因性」の2つの要件を満たす必要があります。

・業務遂行性:その傷病が、会社の支配下/管理下で行われたものか。
・業務起因性:その傷病が、業務を原因として生じた災害によるものか。

職場での喧嘩における業務遂行性と業務起因性

(1)職場での喧嘩と業務遂行性

業務遂行性は、その傷病が会社の支配下/管理下で行われたかどうかですので 、職場すなわち会社の事業所内や業務時間内の行為なら、基本的には業務遂行性ありということになります。
また、休憩時間中や出張中にオフィス外で起こった事故でも、勤務時間内でのことであれば、認められやすい傾向にあります。
一方で社員同士の喧嘩による傷病でも、その喧嘩が休日や業務終了後に外(プライベート)でのものであれば業務遂行性はないと言えます。

(2) 職場での喧嘩と業務起因性

業務起因性は、その傷病が業務を原因として生じた災害によるものか業務との因果関係を見るものですので、業務遂行性が割と形式的な判断になるのに対し、業務起因性は実体的な判断になる傾向があります。
事業所内の業務時間中のこと(業務遂行性あり)であっても、原因が単なる個人的な恨みに基づく従業員間の喧嘩であるときには、それによる傷病には業務起因性がありませんので、労災ではないと判断されることになるでしょう。

職場での喧嘩と労災に関する判断ポイント

職場での喧嘩に関する労災認定について、業務遂行性で争いになることはあまりなく、業務起因性について争いになる場合が多いでしょう。
そして、業務起因性が認められるかにおいては、「本来の業務によって起こったものかどうか」をメルクマールと考えておくのがよいでしょう。
そしてこれを見る際には主として下記の点から分析するのがよいでしょう。

・そもそも業務上の行為を契機としているか
・そうであったとしても、挑発行為や業務と無関係な暴言等が直接のトリガーとなっていないか

最高裁昭和4992日判決では、工事現場従業員同士が喧嘩となり一方が死亡しておりますが、下記のように述べて、業務起因性を否定しました。

本件災害自体は、亡Bが、Aに対しその感情を刺激するような言辞を述べ、更に同人の呼びかけに応じて県道上まで降りてきて嘲笑的態度をとり、同人の暴力を挑発したことによるものであって、亡Bの右一連の行為は、全体としてみれば、その本来の業務に含まれるものといえないことはもちろん、それに通常随伴又は関連する行為ということもできず、また業務妨害者に対し退去を求めるために必要な行為と解することもできない。

第2 職場での喧嘩と会社の民事責任

職場での喧嘩については、労災という行政(労災保険)の問題に加え、民事上の責任が問題になります。
民事上の責任としては、使用者責任と安全配慮義務の問題があり、これらの責任が認められる場合、会社が傷病を負った従業員に対して損害賠償責任を負いますのでこの点も重要なポイントになります。

職場での喧嘩と使用者責任

(1)職場での喧嘩に使用者責任が認められるかの判断基準

職場での喧嘩について会社が使用者責任を負い、加害者である従業員と連帯して賠償責任を負うかは、下記の2点が認められるかによって判断されます(最高裁昭和44年11月18日第三小法廷判決)。なお、暴行にかかる紛争においては、事業執行との密接関連性が肯定されることが少なくない傾向にある。

・被用者の暴行が使用者の事業の執行を契機とするか。
・上記の契機となった事業の執行と密接な関連を有すると認められるかどうか。

(2)関連する裁判例

(横浜地裁川崎支部平成30年11月22日判決)
下記の従業員間の喧嘩について、「原因は、本件暴行前から生じていたXとY1との個人的な感情の対立、嫌悪感の衝突、XのY1に対する侮辱的な言動にあり、本件暴行は、私的な喧嘩として行われたもの」として使用者責任を否定した。
Xが、Y1に対し、Y1は仕事ができず、他の従業員に迷惑をかけているとのY1を貶める発言や、本件トラブルの原因はY1のミスなので報告するなどとの事実に反しY1を貶める発言をしたこと等から、これに憤激したY1が、Xからパソコンを取り上げようとし、XがY1の右手首をつかんでひねったことがきっかけとなって、Y1が本件暴行を開始した。

(福岡高裁昭和51年3月30日判決)
酒店経営者から禁止されていたにもかかわらず、執務中、飲酒し酔っていたバーテンダーが、同僚から注意されたことに憤激し、勤務時間内に店内で、業務に用いられる庖丁を使用して、その同僚を殺害した事案。
この事案において裁判所は、当該損害は、被告(控訴人)会社の「事業の執行と密接な関連を有する」と認めた。

職場での喧嘩と安全配慮義務

会社(使用者)は、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう必要な配慮をする義務(安全配慮義務)を負っています(労働契約法5条)。
会社が当該義務に違反し損害賠償責任を負うかは、下記の2点を満たすかによって判断されます。

・予見可能性がある。
・回避可能性がある。

人が多くいてそこで働いている以上、人間関係でトラブルが起きるリスクは常にありますから、予見可能性や回避可能性がないと評価されるハードルは決して低くありません。
しかしながら、職場の人間関係をすべて把握できているということもあり得ませんので、喧嘩した当事者同士が、業務上の接点が多い関係性か、両者間が険悪な状態という報告が多く届くかといったといった観点がポイントになります。

第3 報告を受けた会社の初動対応

法務的な観点から

従業員が喧嘩でケガをしたと報告を受けたら、まずは現状の把握が重要になります。会社の責任は上記したとおりでありますので、これに関連する内容すなわち下記の点は漏れなく確認するようにしましょう。

・喧嘩が起きた場所(事業所内か)
・喧嘩が起きた時間(業務中か休憩中か、就業時間外か等)
・喧嘩になった契機
・喧嘩した人が誰でそれぞれどのような立場で両者間の関係はどのようなものになるか
・喧嘩におけるそれぞれの暴行の内容と被害者のケガの程度

法務的な観点以外から

会社が責任を負うか否かはさておき、従業員がケガを負ったという状況です。
傷病の程度にもよりますが、重い場合にはお見舞い等ちゃんと気持ちのケアをするべきです。
また、加害者側も興奮しているでしょうから、本人の気持ちにケアしながらなぜこんなことをしたのか丁寧に接して聞きましょう。場合によっては自宅待機を命じることも必要になるでしょう。
加えて、喧嘩の場面によっては、周囲がショックを受けていたり不安を感じている場合もあるでしょう。状況を説明するとともに、加害者に指導したこと等、他の従業員が同じ被害に遭う可能性を下げるように対応していることを示すことが職場環境のために大切になります。

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