【概要】法務デューディリジェンス(法務DD)の流れと注意点

M&A

M&Aの案件を担当することになり、外部の法律事務所と協力して法務デューディリジェンス(法務DD)を行うことになりました。初めてのことで不安ですので、法務DDの流れやポイントについて教えてください。

法務DDの流れは一様なものではありませんが、よくある流れとしては、下記になります。
①チーム組成をして重点事項とスケジュールを決めるプランニング
②必要資料のリストを作成し、当該リスト記載の資料を収集し確認し、またマネジメントにインタビューをするという調査の実施
③調査の結果を分析して評価したDDレポートの作成

これを踏まえ以下で詳細を説明していきましょう。

1 法務DDのプランニング

法務DDは、M&Aの実行に当たり、当該M&Aを実行すべきか、対価はいくらが相当か、スキームをどうすべきかといった点に影響する重要なものになります。実行に当たっては、大量の資料を一定の期間内に分析し評価しなければならず、多忙なものになりますので実施計画をきちんと設計することが重要になります。
具体的には下記のような内容を固めていくことになります。

(1)法務DDチームの組成

法務DDにおいては、膨大の資料を一定の期間内に分析し評価することになりますので、多くの場合には外部の法律事務所に依頼することになります。
加えて法務部署内から適切なメンバーを選び、チームを組成し当該法務DDを行っていくことになります。

(2)重点範囲の決定

法務DDで主として調査すべきものは大別をすると以下の3つになります。
①M&A実行の障害となるおそれがあるもの
②事業継続の障害となるおそれがあるもの
③買収企業の企業価値に悪影響を与えかねないもの

上記③は、買収対価で調整しうるものですが、上記①②はそもそもM&Aをすべきでないという結論につながるものですので特に重要になります。
上記の観点から、対象会社のリスクを想定し、具体的にどのような項目を重点的に調査するかを弁護士と相談して決めていきます。

(3)スケジューリング

DDのキックオフから最終報告までのスケジュールを作成します。
データルーム等での調査や中間報告、これを踏まえての最終報告までそれぞれどのくらいの期間を設けるか等を決めておきましょう。

2 キックオフ

DDは法務DDだけが行われるわけでなく、M&Aに向けて行われる様々なDDの中のひとつとして行われます。そのため、他のDDと足並みをそろえながら進めていく必要があります。
そこで、DDの実施に入る前に、顔合わせ・DDのゴール確認・スケジュール共有等を目的としてキックオフを行う場合が少なくありません。
特にM&Aの相手方調査のためのDDの場合、DD対象の企業内でのルールや参加者のスケジュールの関係で混乱が生じやすいため、キックオフは大変重要になります。

3 調査

(1)DD資料の精査

DDに当たり、対象会社から資料を取得する必要があります。買主側は、必要資料リストを作成し対象企業に提示しそのリスト記載資料を提供してもらいます。

買主側は、当該資料を確認して法的な問題がないかを精査していきます。
資料の分量は膨大で、分析に当たっては専門的な知見が必要になります。
そのため弁護士の先生とうまく連携をとることが有効な法務DDの実現に重要になります。

(2)マネジメント・インタビュー

DD資料から生じた疑問や書面等の資料からだけではわからない部分については、対象会社の経営陣や担当者に対して、直接インタビューを行って確認することになります。
インタビュー事項については、予め取りまとめたうえで、対象会社に対して事前通告を行います。
マネジメント・インタビューは機会が限られますので、質問すべき事項に漏れがないように外部弁護士と協力しながらインタビュー事項を詰めていかなければなりません。
なお、必要な情報の取得だけでなく、対象会社のマネジメント層の意識や能力を測る材料にもなります。

(3)現地調査

対象会社の状況を、買主側が自らの目で見て確認したい場合には、オフィスや工場などの現地調査が行われることもあります。

4 法務DD結果の報告

法務DDを行い、下記のようなリスク事項がなかったかを評価したら、その結果を報告することになります。
①M&A実行の障害となるおそれがあるもの
②事業継続の障害となるおそれがあるもの
③買収企業の企業価値に悪影響を与えかねないもの

当該報告においては、中間報告と最終報告がありますので、これらについて下記で説明します。

(1)中間報告の実施

いきなり最終レポートの提出ではなく、おおよその分析ができた時点で内部で中間報告を行うことも少なくありません。

この場合、外部弁護士から見通しを聞くとともに、前提となる事実の認識について齟齬がないか、追加調査が必要なものがあるかといった点をすり合わせます。
そして追加調査が必要なものが出てきた場合は、追加調査を行います。

(2)最終報告書(DDレポート)の作成及び報告

法務DDは、最終報告書(DDレポート)を作成しその内容を報告することをもって完了します。
買主側の経営陣がM&Aの実行可否を判断するための重要な資料となりますので、その内容は正確に把握しなければなりません。
不明点があれば遠慮することなく担当の弁護士に確認していき、不明点を残さないようにする姿勢が重要になります。

5 法務DD結果のM&A契約への反映

法務DDにより明らかになった対象会社に関するリスクは、売主・買主のどちらかが負わなければなりません。

判明したリスクが買主にとって許容できないものである場合にはそもそもディールがブレイクすることになります。
しかしながらそこまででなければ、売主・買主間のリスク分担は、M&Aの契約に反映する方法で行われます。
具体的には、売主がリスクを負担する場合には、買収代金の減額、取引実行前提条件、表明保証、「遵守事項等の定めにより対応し、買主がリスクを負担する場合には、容認事項の規定により対応することが考えられます。

(1)売主によるリスク負担

①買収代金の減額
リスクの内容が金銭的に評価できる場合には、当該リスクを金額に反映することでリスク分担することがあります。

②取引実行前提条件
取引実行前提条件とは、M&Aの実行に先立って充足しなければならない条件のことです。
DDで判明したリスクを、M&Aの実行までに治癒することを取引実行前提条件として規定しておいて、売主による是正を促します。

③表明保証
表明保証とは、当事者の一方が相手方に対して一定の事項を表明・保証し、違反が発覚した場合には損害を補償する内容の規定です。
DDを通じても不明確なままの事項や、売主が提供する情報からしか確認できない事項については、その真実性を売主が表明保証させて違反のリスクを負担するという形で折り合いをつけることがあります。

④遵守事項
遵守事項とは、契約締結後に当事者が遵守すべき事項を意味します。
M&Aの実行後にも、売主によるアフターフォローが必要となる事項については、売主の遵守事項として規定しておき、買主が必要なサポートを受けられるようにしておくことが多いです。

(2)買主によるリスク負担

①容認事項
容認事項とは、買主側が対象会社を買収するに当たり、了解済みのリスク内容を列挙した規定です。
容認事項に記載された内容については、その結果として買主が損害を被ったとしても売主に対して補償等を請求することはできなくなりますので、買主側でリスクを負担することになります。

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