■IPO対応実務の概要
IPO実務においては、時間的な点から①意思決定期間②直前前期、直前期③申請期の3つに分けられ、それぞれの時期において中心的に対応しなければならない内容が下記のように分けられます。この時期はIPO申請を実施すべきかをまず検討するフェーズになります。この時期に、IPOをしてどうなりたいのかという点やまたそもそもの現実味を確認することになりますので、以下のステップを踏むことになります。
1-1 プロジェクトチームの結成
1-2 資本政策の検討
1-3 監査法人によるショートレビュー
2 直前前期、直前期
この時期は申請に向けて必要な基礎を固め運用に入るフェーズになります。具体的的には下記各項目記載の内容を実行していくことになります。
2-1 利益管理体制
・事業計画
・予算制度、月次決算
2-2 業務管理体制
2-3 経営管理体制
・組織体制
・経営に関する諸規定
・内部監査
2-4 内部統制報告制度対応
2-5 関係会社の整備
2-6 関連当事者との取引の整備
2-7 企業会計の適用
2-8 申請書類の作成
3 申請期
3-1 主幹事証券による引受審査
3-2 証券取引所による上場審査
■意思決定期間
1 プロジェクトチームの結成
IPOには膨大な事前準備が必要となりますので、プロジェクトチームを作り一丸となって対応することが必要になります。社内においては事業系と管理系が後者においては経理財務、総務、法務内部統制が重要な役割を担います。また、社外の関係者との連携も重要であり、主幹事証券会社と監査法人とは特に密接な連携が不可欠になります。
2 資本政策の検討
(1)資本政策
事業計画を達成するための資金調達及び株主構成の計画
(2)資本政策を考える上での5つの重要項目
資本政策においては下記の5項目が重要でこれらは経営者が最終的に意思決定しなければなりません。
①安定株主対策:安定株主を誰にするか、安定株主の議決権割合を何%にするか
…会社法上の議決権割合を中心に考えるべき。
②資金調達:いつまでにいくら必要でどのようにして調達するか
③インセンティブプラン:誰にどのようなインセンティブを付与するか、IPO後にはどのくらいの価値になるか
…インセンティブとしては、ストックオプションや持株会が代表的。
④創業者利益:誰がいついくら欲しいか
⑤IPO後の株主像:IPO後に保有してほしい株主はどのような人物像か
3 監査法人によるショートレビュー
株式上場を検討している企業が、監査法人に、どのような課題を有しているのかを洗い出すためにしてもらう調査をショートレビューといいます。
株式上場の審査基準のひとつに「最近2年間の財務諸表等について、監査法人または公認会計士の監査等を受けていること」が掲げられていますので、ここでつまづかないために、事前に問題点を洗い出すためにショートレビューを意思決定期間の段階で行います。
■直前前期・直前期
1 利益管理体制
(1)事業計画
【事業計画とは】
- 事業計画は、事業目的を達成するための具体的な行動計画であり、通常は3~5年の戦略・戦術を明らかにした計画
- 事業計画の合理性は上場審査における審査項目の一つであり、これが最も重要な審査項目とも言われています。
【事業計画の構成やポイント】
事業計画は、「過去」の事業の変遷、「現在」の事業の状況と特徴、そして「未来」の計画から構成されます。「未来」の計画は「過去」「現在」を基に戦略的に合理的で明瞭なストーリー性や予算と体系的な連動等が重要になります。
①過去の事業の変遷
- 会社設立の経緯:会社設立の目的や思い、経営理念やビジョンの起点
- 代表取締役の経歴
- 会社の沿革:目論見書の記載とは異なり、事業の変遷や成長の契機といった点に重きをおく
- 売上総利益分析:過去の実績を部門やセグメント別に説明する
②現在の事業の状況や特徴
- 事業の特徴:ビジネスモデル、サプライチェーン、業界でのポジション
- 商品・サービスの特徴
- SWOT分析
- 業界分析
③未来の計画
- 5フォース分析等を踏まえた事業戦略
- 損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書
(2)予算制度、月次決算
中期事業計画を単年度に落とし込んだものが短期事業計画であり、同計画の数値に関する部分が予算になります。計画が荒唐無稽なものでなく合理的かという点の判断や計画の実現において予算と実績を比較・分析し、それを基に対応行動していくことが必要になります。
予算の制度やその管理の状況は、上場審査の中でも注目されますので、早期に比較・分析・対応できるように月次決算の早期化等にも努めていくことが求められます。
2 業務管理体制
会社の主要業務が、属人的ではなく、組織的に行われる体制が整備されていることが必要となります。
【主要な業務管理体制】
- 販売管理体制
- 購買管理体制
- 在庫管理体制
- 資産管理体制
- 資金管理体制
- 人事労務管理体制
【上場審査場のポイント】
- 主要業務に関する手続や決裁権限が社内規定等で定められておりその運用が徹底されているか
- 内部けん制機能が確立され、不正や誤謬の未然防止体制が確立されているか
- 重要または継続的な取引について契約書が締結されているか
- 主要業務オペレーション上で起票される帳票類が適切に作成され、時系列に沿って保管・管理されているか
3 経営管理体制
(1)組織体制
会社の企業活動が成長し永続することが、上場により社会から求められるようになります。そのため、企業においては、効率的で効果的でかつ健全に事業活動を運営していくことができる組織体制としてコーポレートガバナンス体制を構築しなければなりません。
上場企業のコーポレートガバナンス体制はコーポレートガバナンスコードの内容を参考にする必要があり、上場企業は同コードに則りどうであるかコーポレートガバナンス報告書を開示しなければなりません。
組織整備において大きく意識しておく必要があります点は以下の4点になります。
- 内部けん制機能の充実
- 適切な人材・人員の配置
- 組織的な内部監査の実施
- 意思決定機関の整備
(2)経営に関する諸規定
組織的な業務運営の実現には、ルールがありかつ当該ルールが明文化されていることが重要です。そのため、社内規定が整備されていることが上場企業には強く求められますところ、IPOに当たり企業は、会社の業務を過不足なく網羅し社内規定を整備しなければなりません。社内規定の策定に当たっては、下記の点に特に注意を払う必要があります。
- 法規の遵守
- 諸規定間の整合性
- 実際に運用される内容である
(3)内部監査
内部監査制度は、会社の業務が各種法令、経営方針や社内規定等に従い効果的・公立的に行われているかを検証する制度です。
【内部監査の実施体制】
監査はその性質から、監査部署は以下の2点が重要です。
- 他部署からの強い独立性
- CEOの直属である
【内部監査の実施手続】
- 内部監査計画を作成し、品質を一定水準以上に保つべく内部監査手続書や内部監査チェックリストを作成し、これに基づき内部監査を実施する
- 内部監査実施報告書と監査による指摘事項に対する改善結果報告書をまとめCEOに報告する
4 内部統制報告制度対応
上場すると内部統制報告書の提出が必要となります。
内部統制におけるポイントの詳細は「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準」を確認いただくのがよいのですが、内部統制の重要な観点として下記を意識しておきましょう。
【内部統制の4つの目的】
- 業務の有効性及び効率性
- 財務報告の信頼性
- 法令等の遵守
- 資産の保全
【内部統制の6つの基本的要素】
- 統制環境:組織の気風を決定し、統制に対する役職員の意識に影響を与えるもの
- リスクの評価と対応:リスクを識別して分析評価するプロセスとリスクへの適切な対応を選択するプロセス
- 統制活動:経営者の支持が実行されることが確保するために定められた方針及び手続き
- 情報と伝達:必要な情報が識別、把握、処理され正しく伝えられることを確保するもの
- モニタリング:内部統制が有効に機能していることを継続的に評価するプロセス
- ITへの対応:業務の実施においてITに対して適切に対応すること
5 関係会社の整備
関係会社がある場合には、関係会社の整備も検討しなければなりません。下記のような状況では関係会社の整備が必要かは以下の観点を見ていくことになります。
- 存在に合理性、必要性があるか
- 関係会社の経営状況は悪化していないか
- 管理体制が整備されているか
- 取引内容・条件に合理性・必然性があるか
- 子会社は申請会社が100%出資しているか
6 関連当事者との取引の整備
関連当事者取引とは、会社と関連当事者の間で行われる取引のことを指します。関連当事者とは、会社の役員、主要株主、関連会社等の会社経営に密接に関わるステークホルダーのことを指します。
関連当事者取引は、利益相反取引や決算操作の危険をはらむため、上場審査において重要事項の一つで、原則として取引の解消を求められます。解消が困難な場合は、以下の3つの観点から問題ないか取引の妥当性が確認されます。
- 取引の必然性
- 取引条件の妥当性
- 意思決定プロセスの適正性
7 企業会計の適用
IPOをすることになると、税務会計ではなく企業会計でなければなりません。税務会計の場合は年に1回・現金基準ですが、企業会計は年に4回(四半期決算)・実現基準になり、現在税務会計の場合は大幅な修正が必要になります。
8 申請書類の作成
申請自体は申請期になりますが大量の書類を準備しなければなりませんので、直前前記・直前期から準備をしておく必要があります。
■申請期
上場のためには主幹事証券会社による引受審査と証券取引所による上場審査を受けることになります。
1 主幹事証券による引受審査
引受審査は、主幹事証券会社が引受責任を果たすために、会社が提出した資料及び情報や証券会社が収集した資料及び情報を基に有価証券の引き受けを判断する審査になります。
【引受審査の内容】
- 公開適格性
- 企業経営の健全性及び独立性
- 事業継続体制
- CG及び内部管理体制の状況
- 財政状態及び経営成績
- 業績の見通し
- 調達する資金の使途
- 企業内容の適正な表示
- その他証券会社が必要と認める事項
【引受審査の手続き】
- 審査資料の提出
- 書面質問に対する回答
- 引受審査部からの指摘事項に対する改善
- 経営者面談 etc
2 証券取引所による上場審査
上場審査は、申請会社が上場適格性を有しているかについて、証券取引所が上場審査基準に基づき判断する審査になります。
【上場審査手続きの概要】
本則市場において上場審査には約3か月かかるとされており、下記のような流れで実施されます。
①上場申請
②書面による質問と回答
③書面質問の回答に対するヒアリング
④実地調査
⑤公認会計士ヒアリング
⑥役員面談
⑦社長説明会
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