会社分割(吸収分割)の手続きの流れとサンプル書式

M&A

グループで経営効率化のために組織再編として会社分割(吸収分割)を行うことになりました。初めて担当する案件で不安なので、流れやその具体的な内容が知りたいです。

それは大仕事ですね。それでは手続きの概要とその際の注意点を下記で説明していきますね。下図を見てそれを意識しながら記事を読んで下さい。

また、実際に手続き書類を作成していくことになるでしょうから、それらのサンプルも参考として共有しますね。

なお、今回の記事では公正取引委員会への報告は扱っていません点ご注意ください。

BIZIGNのHPより引用(https://reference.bizign.jp/category/bunkatsujitsumu/)

1 分割契約の締結

【概要】
吸収分割は、株式会社または合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部または一部を、分割後他の会社に承継させることをいいます。
その実現のために、当事者間で分割契約を締結しなければなりません。同じ企業グループ内での吸収分割であればいきなり分割契約書を作ることが多いでしょうが、他社との間ではまず基本合意をしてから分割契約とすることになるでしょう。
また、分割契約の締結は、分割契約の締結は「重要な業務執行の決定」として取締役会の承認を得なければなりません。

【分割契約】
分割契約書に記載しなければならない内容は下記になります(会社法758条1項)。
a.当事会社の商号・住所
b.承継する権利義務
c.分割会社または承継会社の株式
d.吸収分割の対価
e.f.分割会社の新株予約権者の取扱い
g.効力発生日

具体的には下記のサンプル書式を参考にしてください。

2 事前開示書類の備置

【概要】
吸収分割において、当事会社は、株主や債権者がその権利行使の判断をするのに必要な情報を提供する観点から、事前に分割契約の内容や対価の相当性を記した書類を備え置かなければなりません。
その備置期間は、次のうちいずれか早い日から、分割の効力発生日後6か月を経過する日までです(会社法782条2項、794条2項)。

【備置期間】
備置期間は、次のうちいずれか早い日から、分割の効力発生日後6か月を経過する日までです。
①株主総会の日の2週間前の日
②株主に対する通知または公告の日のいずれか早い日
③債権者に対する催告または公告の日のいずれか早い日
④新株予約権者に対する通知または公告の日のいずれか早い日
⑤上記①~④の日がない場合には、吸収分割契約締結日から2週間を経過した日

【事前開示書類の記載内容】
事前開示書類の必要的記載事項は以下になります。
1 吸収分割契約の内容
2 吸収分割に際しての分割対価の相当性(分割対価が株式の場合には、承継会社の資本金・準備金の額の相当性に関する事項)
3 吸収分割の効力発生日に、全部取得事項付種類株式の取得、剰余金の配当を行う旨の総会決議が行われている場合には、その決議内容
4 吸収分割に際して、分割会社の新株予約権者に対して、その新株予約権に代わり交付する承継会社となる会社の新株予約権の相当性に関する事項
5 相手方当事会社の計算書類等の内容
6 最終事業年度の末日後に生じた重要な事象等の内容
7 債務の履行の見込みに関する事項
8 上記1から7の事項に変更が生じたときは、変更後の当該事項

具体的には下記のサンプル書式を参考にしてください。

3労働者保護手続き

会社分割の他と異なる特徴として、労働者保護手続きがあります。労働契約承継法によって、分割契約により労働契約関係の承継を強制または排除され不利益が生ずる労働者を保護するために労働者に異議申立ての機会を与える等の手続を経なければなりません。

(1)過半数組合または労働者の過半数代表者との協議(7条協議)

分割会社は、すべての事業場において、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合、それが存在しない場合は労働者の過半数代表者との協議その他これに準ずる方法によって、雇用する労働者の理解と協力を得るように努めることが求められます。

(2)従業員との個別協議(5条協議)及び従業員への個別通知(2条措置)

【概要】
分割会社は対象となる労働者に対し、通知期限日までに、会社分割に関する一定の事項について、個別に協議し、また通知しなければなりません。
この協議を一切行わないと会社分割の無効原因になりうることやただ通知すればよいのではなく協議の機会を設けなければならないところ、実務上において非常に重要なポイントになります。

漏れが起きないように、人事FBの機会等上司との定期的な1対1の面談の機会を利用したり、全体説明会を行った上で個別の相談ブースの相談時間を設けたり相談ダイヤルを設けてそこで意見集約をしていくといった対応等も考えられます。
また、協議の項目と通知内容とは重複する点が少なくないので、協議に際して通知書を基に協議しそこで併せて通知書を交付すると手続き漏れが生じにくくなります。

【通知期限日】
①株主総会決議を要する場合は株主総会の日の2週間前の日の前日
②株主総会決議を要しない場合は分割契約が締結された日から起算して2週間を経過する日【対象者】

(2条通知)
①承継される事業に主として従事する労働者
②承継される事業に主として従事する労働者以外の労働者であって、分割契約に労働契約が承継会社に承継される旨の定めがある労働者
(5条協議)
上記①②に加え、承継される事業の主たる従事者は、
・転籍合意で異動する場合
・分割会社から承継会社への出向の場合
であっても5条協議の対象者になります。

(3)異議申立て

労働者は、以下のいずれかに該当する場合、労働者は、書面により異議を申し出ることができます。
①承継される事業に主として従事する労働者を承継会社に承継させない場合
②承継される事業に主として従事する労働者以外の労働者を承継会社に承継させる場合

上記異議申出は通知がされた日から会社の定める異議申出期限日までに行わなければならず、異議申出期限日は、以下の条件を満たさなければなりません。
①株主総会決議を要する場合:通知期限日の翌日から分割承認株主総会の日の前日までの期間内で会社の定める日まで
②株主総会決議を要しない場合:分割効力発生日の前日までの日で会社の定める日まで
③通知がされた日と異議申出期限日との間に少なくとも13日間を置く

4 債権者保護手続

【対象者】

承継会社の債権者は、分割について異議を述べることができます。
分割会社の債権者は、吸収分割後に分割会社に対して債務の履行を請求することができない場合に限り、分割について異議を述べることができます(会社法789条1項)。そのため、重畳的債務引受の場合、分割会社の債権者への債権者保護手続きは不要となります。
なお、重畳的債務引受だからといって承継会社の債権者保護手続きも省略できるわけではない点に注意が必要です。

【手続き】

分割の効力発生日の前日の1か月以上前までに以下の①、②-1をしなければなりません。
 ①  分割をする旨等の一定の事項を官報に公告、
 ②-1  知れている債権者に対して個別催告しなければなりません。

但し、会社の定款に定める公告方法が日刊新聞紙または電子公告である場合には、下記の②-2を行って上記②-1を省略することができます。
 ②-2 定款に定める公告方法による公告を行う

5 株主保護手続

(1)株主への通知

会社は、株主に買取請求の機会を与える観点から、分割の効力発生日の20日前までに、吸収分割をする旨並びに当事会社の商号および住所を、すべての株主に通知しなければなりません(会社法785条3項、797条3項)。

但し、略式分割における特別支配会社や分割会社の簡易分割における株主は通知が不要になります。簡易分割であっても承継会社の場合には承継会社への通知が必要な点に注意が必要です(797条3項には785条3項のような但書きがない)。

(2)反対株主の株式買取請求

反対株主は、以下の手続きを経て株式の買取請求ができます会社法785条5項、797条5項)。

①株主総会に先立って会社の行為に反対する旨の通知をし、株主総会において当該事項に反対する(※)。実務では招集通知に同封の議決権行使書で反対に〇を付けて総会前に返送する方法で対応します。
②効力発生日の20日前から前日までの間に株式買取請求をする。
※総会が省略される場合には総会での反対は不要

6 株主総会特別決議

吸収分割は、分割の効力発生日の前日までにそれぞれ株主総会の特別決議による分割契約の承認を受けなければなりません(会社法783条1項、795条1項)。
但し、下記する略式分割と簡易分割である場合には、株主総会を省略できます。

【略式分割】
略式分割とは、吸収分割をする際に、一方の会社が他方の会社の特別支配会社(※)である場合、被支配会社において株主総会の承認決議を要しないものとする制度をいいます。
※特別支配会社とは、被支配会社の総株主の議決権の90%以上を保有する会社です。

【簡易分割】
簡易分割とは、吸収分割をする際に、分割会社においては承継会社に承継させる資産の帳簿価額の合計が分割会社の純資産額の5分の1を超えない場合、承継会社においては交付する財産の合計額が承継会社の純資産額の5分の1を超えない場合、株主総会の特別決議を省略できる制度をいいます。

ただし、以下の場合には簡易分割による吸収分割はできません。
・承継会社となる会社に分割差損が生じる場合
・承継会社となる会社が公開会社ではなくかつ交付される株式が譲渡制限株式である場合

7効力発生後

(1)事後開示書類の備置

会社は、共同して、分割の効力発生日後遅滞なく、分割に関する下記の事項を記載した書類を作成し、効力発生日から6か月間それぞれの本店に備え置かなければなりません。

【事後開示書類の記載内容】
1 吸収分割が効力を生じた日
2 分割会社における株式買取請求手続、債権者異議手続、及び新株予約権買取請求手続の経過
3 承継会社における債権者異議手続の経過
4 吸収分割により承継会社に移転した分割会社の重要な権利義務に関する事項
5 吸収分割についての変更登記の日
6 上記 に掲げるもののほか、吸収分割に関する重要な事項

(2)変更登記手続き

当事会社は、効力発生日から2週間以内に、変更の登記を、それぞれの本店の所在地においてする必要があります(会社法923条)。

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